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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)11246号 判決

原告

額田順恵

外一五名

右一六名訴訟代理人弁護士

松川雅典

藤川義人

被告

アーバンライフ株式会社

右代表者代表取締役

日下部忠昭

右訴訟代理人弁護士

浦田和栄

被告補助参加人

芦屋川アーバンライフ管理組合

右代表者理事長

三宅良彦

右訴訟代理人弁護士

九鬼正光

主文

一  被告は、原告額田順恵に対し、一一二〇万円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告有田スミに対し、一一七七万〇二一〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告荒井實に対し、一一四四万八三二六円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告荒井裕子に対し、六〇万二五四四円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告西原清光に対し、二一四九万三二一〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告齋藤長四郎に対し、二一六一万七六〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告は、原告奥壽二に対し、三〇八九万四一一〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告は、原告和田恭子に対し、二二五〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

九  被告は、原告吉永淑子に対し、一一〇三万六五〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一〇  被告は、原告齋田朝子に対し、二三五九万三〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一一  被告は、原告甲野春子に対し、四九四万四〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一二  被告は、原告甲野三郎に対し、二四九万七〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一三  被告は、原告甲野二郎に対し、二四九万七〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一四  被告は、原告大塚麻由美に対し、別紙区分所有権目録記載の同原告の専有部分につき、同原告が別紙抵当権目録記載の同原告の抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引換えに、九八一万三〇〇〇円を支払え。

一五  被告は、原告永野勝巳に対し、別紙区分所有権目録記載の同原告の専有部分につき、同原告が別紙抵当権目録記載の同原告の抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引換えに、九七二万五一九九円を支払え。

一六  被告は、原告永野美知子に対し、別紙区分所有権目録記載の同原告の専有部分につき、同原告が別紙抵当権目録記載の同原告の抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引換えに、一二万六三〇一円を支払え。

一七  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

一八  訴訟費用中原告らに生じた費用は各原告ごとにこれを五分し、その二をその原告のその余を被告の負担とし、訴訟費用中被告に生じた費用は被告の、補助参加人に生じた費用は補助参加人の各負担とする。

一九  この判決の第一項ないし第一六項及び第一八項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告大塚麻由美、同永野勝巳、同永野美知子のそれぞれに対し、別紙区分所有権目録記載の右原告らの各専有部分につき、別紙抵当権目録記載の各抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引換えに、別紙請求金額一覧表記載の各金員を支払え。

二  被告は、右一項に記載した原告を除いた原告らそれぞれに対し、別紙請求金額一覧表記載の金員及びこれに対する平成八年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告ら及び被告などが区分所有していたマンションが地震が損壊したため、建物の区分所有等に関する法律六一条五項(以下単に「法」という場合は同法をいう)の決議が行われたところ、その決議に反対した原告らが決議に賛成した被告に対し、自己の建物及びその敷地に関する権利の買取りを請求したものであるが(以下買取りを請求している権利を単に「区分所有建物」ということがある)、主として同条七項所定の「時価」の算定要素、方法が争われる事案である。

なお、自己の区分所有建物に抵当権を設定している原告らはその抵当権設定登記の抹消登記手続と引換えに時価の支払いを、その余の原告らは右時価及びそれに対する右買取請求日の翌日から民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求めている。

一  前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  原告ら及び被告は、いずれも別紙建物目録記載の建物(以下「本件マンション」という)の区分所有者であり、その内訳は別紙区分所有権目録記載のとおりである。本件マンションは、昭和四七年五月一九日に建築された建物である。

2  本件マンションは、平成七年一月一七日に発生したいわゆる阪神淡路大震災によって、建物の価額の二分の一を超える部分が滅失した。

そこで、本件マンション管理組合は、平成八年二月一七日、集会を開き、滅失した共用部分などを復旧する旨の決議(法六一条五項の決議。以下「本件決議」という)を行った。

3  原告らは、いずれも本件決議に反対した者であり、被告は本件決議に賛成した者である。

原告らは、被告に対し、法六一条七項に基づき、平成八年五月一六日に到達した書面で、別紙区分所有権目録記載の各権利を時価にて買い取るべきことを請求した。

二  争点と当事者の主張

1  当事者全員についての争点

(一) 買取請求をした場合の所有権移転時期(時価の基準時)(争点1)

(1) 原告ら

買取請求権の法的性質は形成権であるから、請求権の行使により区分所有権は相手方に移転する。これは区分所有建物に抵当権が設定されている場合でも異ならない。また、仮に買取請求権の行使だけでは確定的に所有権が移転しないと考えるとしても、既に原告らは被告に対し区分所有建物の引渡を完了しているから、所有権移転時期をどのように考えるとしても本件では所有権が移転している。

(2) 被告

買取請求の区分所有建物に担保権が設定されている場合には、代金の支払いが担保権の抹消・引渡等と引換給付になるべきである。また買取請求を受けた者が破産した場合等を考えると担保権の設定等がない場合でも少なくとも現実の代金支払いまでの間は確定的に所有権が移転したと考えるべきではない。

(二) 法六一条七項規定の時価の解釈(争点2)

(1) 原告ら

価格時点において被災しなかったものとした場合の価格から復旧工事費等の被災による減価を控除して算定されるべきである。

なお、別紙請求金額一覧表記載の金額は、右の趣旨に沿い、時価=価格時点で被災しなかったものとした価格−(共用部分の修繕費×各原告の負担率+専有部分の修繕費)の算式を用い、価格については被災直前の平成六年一二月二七日に二〇一号室を二三五〇万円で購入した原告大塚麻由美の取引実例に従い、壁芯面積で除した単価に他の原告ら住戸の壁芯面積と駐車場面積(一二平方メートル)の合計を乗じ、ここから共用部分の修繕金負担分と専有部分の修繕費を控除したものである。

(2) 被告

時価とは一部滅失の状態での価格であって、たとえば復旧後の想定評価額から専有部分復旧工事費及び共用部分復旧工事費分担額を控除して算定される額等である。

買取請求権の行使が、決議に賛成した区分所有者の誰にでもできるとした法の趣旨は、買取請求を受ける者について実質的出捐がなく、損害が発生しないことを予定しているものと解されるところ、本件のように一区分所有者に対し一三戸から買取請求がなされたような場合には当該区分所有者は当然対象物件を転売処分せざるを得ないのであり、時価は復旧後の建物価格(市場価格)から、復旧のための費用だけでなく仲介手数料等転売のための費用も控除した金額をいうと解するべきである。

(三) 時価において考慮すべき費用(争点3)

(1) 原告ら

前記のように時価とは価格時点において被災しなかったものとした場合の価格から復旧工事費等の被災による減価を控除して算定されるものであるから、時価算定において控除される費用は復旧工事等の被災による減価のみである。復旧工事費とは被災前の状態に復旧しかつ安全性を確保するのに必要最低限の工事に対応する費用のみを指す。具体的には、①十分な安全が確保されるものであること、②機能の向上を目的とする工事が含まれないこと、③使用部材、機器等の更新は復旧工事に必要最小限度のものであることという要件を満たした費用だけが控除されるべき復旧工事費に含まれる。

被告は、本件決議後に管理組合の決議により支出が確定した補修費用も時価の算定に当たって考慮すべきものとして挙げるが、本件決議の際には費用の説明がありそれをもとに決議をしたのであり、後に大幅に増額された費用を原告らが負担するという法的根拠はない。また、買取請求によって区分所有権は原告らから被告に移転したものであり、その後の管理組合の決議には拘束されない。仮に買取請求によって確定的に所有権が移転していないとしても原告らは管理組合の集会の招集通知を受けておらず決議の拘束力を受ける理由はない。

(2) 被告

前記のように時価は復旧後の転売処分を前提として、現在の常識的なマンションとして販売可能な程度に復旧した建物価格(市場価格)から右の程度の復旧に要した費用を控除して算定する方法を基準とするべきである。そこで、本件建物は中古マンション市場において販売可能な状態まで修繕工事を行うことが必要であるから、右建物価格から控除されるのは「被災前の状態に復旧しかつ安全性を確保するのに必要最低限の工事に対応する費用」のみに限定されない。また、所有権移転登記手続の登録免許税(転売を予定していることから、原告らから被告への移転のみならず被告から新たな買主への登録免許税も課されることになる)及び登記手続費用、未払管理費及び積立金、被告からさらに第三者に転売する際の仲介手数料も時価において考慮すべきであるし、各住戸の清掃や不要物の処分費用も買取請求が売買契約であることから当然に考慮すべきである。被告の主張する費用は、別紙芦屋川アーバンライフ買取請求者別費用負担明細(以下「別紙費用明細」という)記載のとおりである。

2  特定の原告らと被告との間の争点

(一) 駐車場専用使用権は買取請求権の権利に含まれるか否か(争点4)

(1) 原告西原、同齋藤、同奥、同和田、同齋田

本件マンションには、管理組合から特定の区分所有者等に賃貸する形式の賃貸駐車場と、本件マンションの分譲の際建物区分所有権とともに一緒に分譲された分譲駐車場の二種類があり、いずれも地上二階に存する。昭和六二年七月一四日改訂の本件マンションの管理組合規約(以下「組合規約」という)一六条三項は、分譲駐車場につき建物存続期間中専用使用できるものとすると規定している。本争点の原告らはいずれもこの分譲駐車場を有している者である。

以下の理由により、駐車場専用使用権は買取請求権の対象に含まれると解するべきである。①本件マンションは、建物自体は存続しているものであり原告らの駐車場に対する専用使用権は買取請求時にも存続していた。②組合規約一六条一項は駐車場を本件マンションの区分所有者に限り譲渡することができると規定しており、原告らの駐車場の買取請求はこの趣旨に沿うものである。③昭和五四年に建設省は「分譲業者が共有敷地等に専用使用権を設定して、その使用料を得る等の例は(中略)取引の形態として好ましくないので、原則として、このような方法を避けること」という通達を出したが、それにもかかわらず昭和六二年の組合規約改訂の際には同規約一六条の存在を容認している。④法六一条七項は、「建物及びその敷地に関する権利」と規定しており、分譲駐車場の法的性質がどのようなものであれ、右権利に含まれることは明らかである。⑤もし駐車場の専用使用権が買取請求の対象にならないとすれば、組合規約上右専用使用権は消滅せざるを得ず駐車場の財産的価値が全く保護されないことになる。これは買取請求制度の趣旨に反するのみならず不当に買取請求者の財産権を侵害するものである。他方で右使用権は管理組合に帰属することになると思われるが、管理組合がかかる財産的価値を利得することは理由がない。

(2) 被告

原告らの主張する駐車場は区分所有権の対象となるものではない。本件マンションは地下一階地上七階の建築物でありそもそも地下二階部分は存在しない。地下二階といわれているものは建物の床下を表現しているに過ぎず独立性はない。したがって、組合規約に分譲駐車場との表現はあるが、実体は建物の共用部分の一部を専用使用している状態である。

これに加えて、次のような理由から駐車場専用使用権は買取請求の権利には含まれない。①組合規約一六条一項は駐車場を本件マンションの区分所有者に限り譲渡することができると定めており、この規定は原則的に譲渡不可であるが例外的に譲渡可能な場合を定めたものと解釈するのが妥当である。この規定によって権利者は本件マンションの区分所有権とともに駐車場使用権を第三者へ譲渡することも可能であり、また駐車場の権利だけを他の区分所有者に譲渡することも可能である。このような点が同じ専用使用権の対象となるバルコニー、ベランダ等と大きく異なる点である。本件マンションの駐車場に関する権利は右のような内容の債権である。②法六一条七項の文言は「建物及びその敷地に関する権利」とされ、区分所有権という表現をしなかったのは、建物の滅失によって区分所有権が消滅している場合のことを考えてのことであるから、この解釈によって駐車場専用使用権が買取請求権に含まれるとは解されない。③本件マンションの修繕に際しては、駐車場部分は登記簿上の専有部分でもないことから駐車場に対しては専用使用権を持っている区分所有者の工事費用負担割合においても駐車場の専用使用面積は一切考慮していない。④近時の裁判例でも駐車場専用使用権を建物の敷地に対する権利等とは全く区別しており、所有権や敷地利用権に類する特別な権利とは認められない傾向にある。

(二) 実際上一戸として使用されていた部屋が二戸となった場合の減価を買取請求者が負担すべきか否か(五〇二号、五〇三号)(争点5)

原告奥は本件マンションのうち五〇二号と五〇三号を一つの部屋として使用していたが、この部屋は本件買取請求後の耐震壁の設置により二つの部屋となった。このことによる費用増加をどのように考えるべきか。

(1) 原告奥

被告らが前記各部屋を分割することによって価値が減少したとしても原告奥の買取請求権による時価は影響を受けない。理由は以下のとおりである。①耐震壁の設置は復旧工事費に含まれない。②原告奥が購入する際には、本件マンションの五〇二号と五〇三号は既に一つの区分所有建物として改装済みであった。③登記簿上各部屋は二つの区分所有建物のままになっているが、その理由は合筆登記手続きを遅延していたために過ぎない。③被告が主張する耐震壁の設置については事前に原告奥に十分な説明がなされていない。④耐震壁を設置することが安全性に必要不可欠であるのか疑問である。

(2) 被告

従来は、二室を一室として使用していたが、現況ではその境界部分に新たに耐震壁が設置されたため、二室を分離して使用することが必要な状態になっており、その結果水回り等各室に必要な設備を新たに施工する必要性が発生している。これによって生じた費用は時価の算定に当たって考慮されるべきである。

(三) いわゆるメゾネットタイプは他の部屋と異なった考慮が必要か否か(争点6)

原告齋藤所有の本件四〇六号はいわゆるメゾネットタイプで二層にわたる建物であるため、居住スペースが単純な床面積に比して少なくなる(階段部分が存する)が、これをどう考えるべきか。

(1) 原告齋藤

メゾネットタイプにおいて床面積単位での評価額が他の部屋に比べて安価にならざるを得ないということはない。理由は以下のとおりである。

①そもそも時価の評価に当たり住戸の面積から階段部分の面積を控除することを主張するのであれば、共用部分の修繕工事費を各部屋の壁芯面積に応じて按分する際にも原告齋藤の部屋については階段部分の面積の控除を考慮すべきである。②二階建て居宅における階段は居住に必要不可欠なものであり、廊下や玄関の踏み込み等とその重要性は変わらない。もし階段部分について床面積から控除して評価するのであれば、廊下、玄関の踏み込み等も床面積から控除すべきことになってしまう。③メゾネットタイプであることによって、他の通常の区分所有部分よりも居住環境は高まり、それだけ評価も高まるはずである。床面積の減少による評価減を主張するのであれば、居住環境の高まりによる評価増も主張しなければ不公平である。

(2) 被告

居住スペースが単純な床面積に比して少なくなる以上床面積単位での評価額は安価にならざるを得ない。

(四) 自殺した可能性のある者が居住していた部屋は減価が必要が否か(争点7)

原告甲野春子外二名所有の本件マンション七〇六号において、約一〇年前に原告甲野春子の子である甲野太郎が死亡したが、その死亡原因が自殺である恐れがある場合、時価の算定に当たってどのように考慮すべきか。

(1) 原告甲野春子、同甲野三郎、同甲野二郎

甲野太郎は、ガス中毒死であり、同人の家族は事故によるものであると考えている。当時のマスコミも同人の死亡を自殺としては取り上げていない。このように死因が自殺であると断定できる証拠がなく当時は事故として処理されたこと、死亡から現在に至るまで一〇年以上経過していること、死亡後も本件マンション七〇六号は原告甲野二郎が書籍の置き場として使用していて空室状態ではなかったこと、その後多数の死亡者を出した阪神淡路大震災が起こっていること等の事情からすれば、甲野太郎の死亡を時価算定に当たって考慮すべきではない。

(2) 被告

本件マンション七〇六号の時価算定に当たっては、甲野太郎の自殺を考慮すべきである。なぜなら、本件マンション七〇六号は、甲野太郎自殺後未使用のまま阪神淡路大震災を迎えた物件であり、通常の価格での販売見込みは存しない。自殺者については、売却時の重要事項説明書に明記すべき事項とされ、その結果非常に安価である等の特別事情のない限り通常ルート、価格による販売は不可能である。被告は、宅地建物取引業者であり、本件マンション七〇六号室の転売する際についても重要事項説明義務があることは当然である。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

買取請求権の法的性質は形成権であり、その意思表示により直ちに当事者間に売買の効果が発生し、相手方はその建物及び敷地に関する権利を取得し、その引渡し及び移転登記の請求権を取得するとともに、時価による売買代金の支払義務を負うと解するべきである。被告は、買取請求を受けた者が破産した場合等を考えると現実の代金支払までの間は確定的に所有権が移転すると考えるべきではないと主張するが、このように通常の売買と別異に考える必要性はない。被買取請求者破産の場合は、破産法の定めるところに従って処理すれば足りる。したがって、時価を算定する基準時は買取請求権が行使された時である。なお、区分所有建物に担保権が設定されている場合でも売買契約の成立は変わらないが、その場合代金支払は担保権の抹消(本件では抵当権設定登記の抹消登記手続)と引換えになされるべきである。

二  争点2について

1  法六一条七項は、建物の価格の二分の一を超える部分が滅失し、集会において区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する決議がなされた場合(同条五項)、その決議に反対した区分所有者(その承継人を含む)に決議に賛成した区分所有者(その承継人を含む)に対して、「建物及びその敷地に関する権利」を「時価」で買い取るべきことを請求することができると規定している。この趣旨は、大規模滅失の場合における建物区分所有関係の将来的解決として復旧を選ぶことを欲しない区分所有者が、区分所有者の団体の意思形成に参画する権利を放棄するかわりに、復旧事業に要する費用を清算して以後の負担を免れることを可能とするものであると解することができる。

2  この場合の時価とは一部滅失の状態での価格である。この具体的評価方法について、本件のように地震により建物が損壊した場合においては、買取請求時において被災しなかったものとした場合の価格から復旧工事費の被災による減価を控除して算定されるべきである。このように考えることが法六一条七項に規定する時価という文言に最も素直な解釈であるとともに、同条項の趣旨にも沿い、また実際上も買取請求者と被請求者との公平な結果になると解する。

3  被告は、まず、復旧後の想定評価額から専有部分復旧工事費及び共用部分復旧工事費分担額を控除して算出される額であると主張する。確かに、この主張は時価の具体的評価方法として取りうる考え方ではある。しかし、被告の主張する復旧後の建物が被災しなかったものとした場合の建物を指すのであれば原告らの主張と異ならない(控除する費用は別問題とする)。そうではなく被災の有無は別として復旧後の市場価格を指すとすると、このような考え方は復旧後の想定評価額が買取請求時の価格(建物が被災しなかったものとした場合の価格)より高額であることを当然の前提としているものであり、そうでない場合には不当な結果を招来しかねない(原告ら指摘のように、買取請求をした結果区分所有権を失う上にさらに被買取請求者に費用を支払うということにすらなりかねない)。本件はまさにこのような場合であって、本件において被告の主張は採用できない。

また、被告は、本件マンションの買取請求が全て被告に対してのみなされたことをとらえて、被告が右買取請求にかかる区分所有建物を第三者に売却することは当然の前提であるとした上で、時価とは現実のマンション市場において売却できる金額であることが必要であるとし、現実のマンション市場で売却できるだけの補修を施した上での市場価格から右補修費用、不動産仲介手数料等を控除したものが時価であるとも主張する。しかし、時価を算定する際の基準を補修後の現実のマンション市場での価格とする考えは、前記買取請求の趣旨からして採用することができない。法六一条七項はあくまでも買取請求をした時点での価格を想定していると考えるべきものであるからである。被告は、時価とは復旧決議のなされた個別の事情を具体的に判断して決定されるべきものであるということを前提にした上で、本件では本件マンションの買取請求が全て被告に対して行われたもので当然転売を予定していること、原告ら主張の時価の考え方では被買取請求者が経済的な損失を被るが法はこのようなことを予定していないこと、通常の復旧決議は共用部分の復旧のみが問題とされ、いわゆる専有部分にまで重要な影響があることは予測されていないが、本件マンションは地震により専有部分についても一律に被害を受けており、このままでは使用することも第三者に販売することもできない状況であることなどの事情を挙げて、時価は被告主張のように考えるべきであるとする。しかし、買取請求が復旧決議に賛成した者のうちの一部の者に集中することがあることは法の予定するところであり、このことをもって当該物件の転売を前提にした時価とすべきであるとは言えない。被買取請求者の損失の問題も、逆に被告主張のように時価を考えれば、原告らに多額の損失が生じる可能性が出てくるのであり、時価算定の基準を考慮するにあたって決定的なものとはなり得ない。また、復旧決議は共用部分のみならず専有部分も含めて建物が価格の二分の一を超えて滅失した場合になされるものであり、復旧決議が専有部分にまで重要な影響があることを予測していないとは言えない。そして、何よりも被告主張のように時価を考えると、時価の算定基準は復旧決議の際には必ずしも明確ではないことになってしまい(その後の買取請求の状況で時価の算定基準が異なる可能性が出てくる)、復旧決議をすること自体が困難になる恐れが生じる。

三  争点3について

1  右のように時価とは、買取請求時において被災しなかったものとした場合の価格から復旧工事費の被災による減価を控除したものである。そして復旧工事費とは被災前の状態に復旧するとともに安全性を確保するのに必要かつ相当な工事に対応する費用を指すと考えるべきである。したがって、機能の向上を目的とする工事は含まれず、使用部材等の更新は復旧工事に必要かつ相当なものと認められた場合に控除されるべき復旧工事費に含まれる。なお、原告は、このような復旧工事費であっても買取請求後に原告らの関与なしで集会で決議された費用は時価算定に際して考慮すべきではないと主張するかのようであるが、その費用が客観的に復旧工事費に含まれるものであるならば、原告ら買取請求者が負担すべきものと解する。

このような復旧工事費の考え方に基づいて、時価算定において考慮されるべき費用を別紙費用明細に基づいて検討する

2  別紙費用明細のうち共用負担費用の当初共用部欄記載のものは、共用部分の復旧工事のためのもので復旧工事費として認められる。これは当事者間で争いがない。なお、その金額は原告ら主張と別紙費用明細とは若干異なるが、これは計算上の誤差の問題であると考えられる。金額的には鑑定結果(原告ら主張に沿う)によるが、鑑定ではこの費用も考慮した上で時価を算定している。

3  別紙費用明細のうち追加共用部欄記載のものは、復旧工事費としては認められない。右欄記載の工事の具体的内容は、被告主張によれば、共用玄関電気錠及び集合インターホン設置工事、集会室リフォーム工事、北側共用廊下天井改修工事、一階バルコニー改修工事、地下一階ピロティ外構工事、地下一階店舗前アプローチ床面改修工事等であるが、これらは本件マンションの機能向上のための可能性が高く、復旧のために必要かつ相当なものとは認めがたいからである。なお、被告は、鑑定結果によっても右工事が必要なものと認められていると主張している。しかし、鑑定が補修の必要を認めるとしている工事と右工事とは必ずしも一致していない。そして、右工事の実施理由からしてもそのほとんどが機能向上のためのものであり、その余のものも右実施理由だけでは復旧のために必要かつ相当であると認めるに足らず、その他にこれを認める事情もない。

4  別紙費用明細のうちサッシュ・ガラス工事は、鑑定結果により共用部分の復旧工事費として認める。そして、この費用として、乙二により少なくとも別紙費用明細記載の金額は要したものと認められる。

5  別紙費用明細のうち専有部負担費用は原告ら各自の専有部分の復旧のためのもので復旧工事費と解されるが(そのこと自体は当事者間で争いがない)、その金額は鑑定結果により認められたものとする。被告は、別紙費用明細記載の金額を主張するが、その主張は被告が買取請求を受けた区分所有建物を第三者に売却することを前提としたもので前提自体採用できない上、被告主張の費用が復旧工事費に含まれると認めるべき事情は窺えない。なお、鑑定は専有部負担費用も考慮した上で時価を算定している。

6  別紙費用明細のうち仲介料は、被告が第三者に買取請求を受けた区分所用建物を売却する際の仲介手数料であり、被告が買取請求を受けた区分所有建物を第三者に売却することを前提としたものであるから、復旧工事費には含まれない。

7  別紙費用明細のうち登録免許税他は、被告が第三者に区分所有建物を売却する際の登録免許税等を考慮したものであり、被告が買取請求を受けた区分所有建物を第三者に売却することを前提としたものであるから、復旧工事費には含まれない。

8  別紙費用明細のうち管理費等は、原告らが買取請求権を行使した区分所有建物についての未払いの管理費であり、復旧工事費には含まれないと解する。被告は、通常のマンション売買において未払いの管理費がある場合には、全額売買代金から管理組合に支払われるのが一般的であること、本件買取請求の場合に被告は買取請求のあった区分所有建物について買取請求後一度も事実上の支配を行ったことがないから管理費の支払義務を負う合理性がないこと、仮に被告が管理費の支払義務を負うにしても被告は未払管理費を売買代金に転嫁することが当然であること等の事情を挙げて、未払管理費を時価算定に当たって考慮すべきであると主張する。しかし、前記判示のように、時価とは買取請求時において被災しなかったものとした場合の価格から復旧工事費の被災による減価を控除したものであり、管理費を誰がいつまで負担するかという問題は別として、時価算定に当たって未払管理費を考慮する余地はないものと言うべきである。

なお、被告は、未払管理費等を自働債権として原告らの買取請求にかかる売買代金債権と相殺することを主張するかのようであるが、被告が本件マンションの管理組合に管理費等を支払ったことを証するものがない本件においては、自働債権たる求償権の発生する余地がないから、この主張も理由がない。

9  別紙費用明細のうち片づけ費用は、本件買取請求の対象となった住戸の清掃費用や不要物の処分費用であり、これらの工事は復旧工事自体とは言えないものの復旧工事に関連して必ず必要なものであるから、これらの工事に要した費用は復旧工事費と解するべきである。その金額は、甲一三により別紙費用明細書の片づけ費用欄記載のとおりと認める。

四  争点4について

1  甲五及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

(一) 本件マンションのいわゆる地下二階には駐車場があるが、本件マンションは地下一階地上七階の建築物として登記されている。

(二) 組合規約には次のような定めがある。

(1) 一五条(賃貸駐車場、自転車置場の専用使用権)

一項 区分所有者は賃貸駐車場について、管理組合が特定の区分所有者もしくは占有者に対し、駐車場専用使用契約により専用使用権を設定することを承認する。(後略)

二項 前項に基づき専用使用権を有している区分所有者もしくは占有者は、別に定めるところにより、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。

三項 区分所有者がその所有する住戸部分、店舗部分及び事務所部分を、他の区分所有者、または第三者に譲渡、または貸与したときは、その区分所有者の専用使用権は消滅する。

ただし、当該譲渡、または貸与の相手方が同居人であるときは、この限りではない。

(2) 一六条(分譲駐車場及び倉庫の処分の制限)

一項 駐車場及び倉庫の所有者は、自己所有の駐車場及び倉庫を本件マンションの区分所有者に限り譲渡することができる。

二項 前項の駐車場及び倉庫を賃貸する場合、その相手方は区分所有者若しくは住戸部分、店舗部分、または事務所部分の貸借人等、本件マンションの占有者でなければならない。

三項 対象物件敷地内で別図(省略)に定めるNO1からNO26の駐車場は、駐車場としての使用目的で権利を取得した者が、建物存続期間中専用使用できるものとする。ただし、別に定める駐車場管理費を管理組合に支払わなければならない。

(三) 組合規約には、規約の変更並びに敷地及び共用部分等の変更等については組合員数の四分の三以上及び議決権総数の四分の三以上で決し、その際はその変更により特別の影響を受ける組合員等の承諾を得る(組合員等は正当な理由がなければ拒否できない)との規定はあるが、組合規約一六条の規定する駐車場の変更や廃止について直接の規定はない。

(四) 本件マンションのいわゆる地下二階の駐車場は二九区画あるが、そのうち賃貸駐車場が三区画あり、残りの二六区画が右(二)(2)記載のNO1からNO26までの駐車場である。本争点の原告らは本件マンションの駐車場を専用に使用していたが、その駐車場はいずれも右(二)(2)記載のNO1からNO26に含まれている。

2  右のように、本件マンションの駐車場は、登記されていないいわゆる地下二階に存するもので、いわゆる分譲駐車場を利用する権利も共有部分の専有使用権である可能性が高いものである。しかし、本争点の原告ら使用の駐車場は、組合規約上分譲駐車場と規定されており、区分所有建物取得時等に対価を支払ったことが窺われること、駐車場の使用権は譲渡先が制限されてはいるものの管理組合の承諾を得ずに処分することができ、規約上も所有者と表現されていること、組合規約には分譲駐車場の変更や廃止についての直接の規定はなく、組合規約変更等の場合でもそれによって影響を受ける組合員等の承諾が必要なことからすれば、本争点の原告らの有する駐車場専用使用権は保護に値する排他的利用権であって、時価の算定に当たって考慮すべきものと解する。

五  争点5について

原告奥が本件マンションの五〇二号と五〇三号を購入する際には、既に一つの区分所有建物となっていたことが弁論の全趣旨により認められる上、真に本件マンションの五〇二号と五〇三号との間に耐震壁を設置することが復旧工事として必要であったことを窺わせる事情はないことからすれば、右耐震壁設置により新たな設備施工が必要となり、そのため費用が生じたとしてもそれを被災により生じた減価に含めることはできない。

六  争点6について

いわゆるメゾネットタイプの住戸においては、居住スペースが単純な床面積に比して少なくなることは当然であるが、メゾネットタイプであることにより当然評価が高まる点もあり、他の区分所有建物と別異に解する理由はない。

七  争点7について

当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件マンション七〇六号においては、原告甲野春子の子である甲野太郎が約一〇年前に死亡したこと、その死亡は自殺であった可能性が認められる。このように死亡原因に疑念が存する部屋は通常の売買の価格に影響を及ぼすものと解される。したがって、このことによる価値の減少は被災がなかったものとした場合の価格としても考慮する必要がある。

八  鑑定結果に対する双方の主張に対する判断

当事者(特に被告)は、鑑定結果に対しいくつかの疑問点を指摘している。当裁判所は、本件鑑定が時価算定の基準時、時価の解釈、駐車場専用使用権の取扱い等について当裁判所と同様の見解に立つもので信用に値するものであると考えるが、当事者指摘の点のうち重要と思われる二点について判断を示す。なお、被告は、弁論終結直前に競売に付されている本件マンション七〇二号についての評価書(乙二三)を提出し、本件マンションの市場性の低さを強調するが、市場性を前提とする点は別としても、不動産競売の価格評価と買取請求における時価とはその目的、趣旨が異なることからして、右評価書によって鑑定結果の信用性が左右されることはない。なお、原告らは、右評価書の提出を故意または重大な過失により時機に遅れて提出した攻撃防御方法であるから却下されるべきものであると主張するが、審理の経過に徴し、時機に遅れたとは認めがたい。

1  本件マンションが既存不適格建築物であることはその敷地の評価について増額要因となるか。

本件マンションの敷地は、実効容積率が約四六〇パーセントとなっており、指定容積率二〇〇パーセント(基準容積率も同じ)を大きく超えていることは当事者間に争いがない。被告は、本件マンションは築後二三年を経過し、最大二〇センチメートル以上の傾きが存在するままで復旧されているのであるから、既存不適格であることは一般の鑑定の場合と異なり、増加要因として考慮すべきではなく、逆に減価要因として考慮すべきものであると主張する。しかし、被災しなかった場合の区分所有建物の価値を算定する場合、一般の場合に評価される既存不適格要因を考慮するのは当然のことであり、本件でも本件マンションが本来の容積率を超える床面積を有する建物であるということを敷地の増額要因として考慮するべきである。その割合は、鑑定結果により二〇パーセントが相当と認める。

2  マンションの販売、分譲に当たって、通常デベロッパーが負担すべき諸費用及び享受すべき開発利益を販売価格に加えるべきか。

鑑定は、右諸費用や開発利益を考慮して被災しなかったものとした場合の価格を算定している。これに対し、被告は、そのような費用や開発利益は当初の分譲時に具体化し消耗されたものであるから、現実に存在するマンションの価格査定において評価する合理性はないと主張する。しかし、中古マンションの価格形成が、最初の分譲時の販売価格から右諸費用や開発利益を控除した金額を基準になされるものとは考えられず、被告の主張は採用できない。

九  原告らの具体的時価評価

1  原告額田

原告額田の区分所有建物(C号)の鑑定による時価は一一二〇万円であり、そこから控除すべきものはないから(サッシュ・ガラス工事費用、片づけ費用とも負担はないことは被告主張から明らかである)、そのままの金額が時価となる。なお、原告額田は、買取請求の意思表示をした日の翌日からの遅延損害金を請求しているが、売買における遅延損害金は対象物件を引き渡してから請求できるものであり、買取請求日の翌日からの請求は理由がない。ただ、弁論の全趣旨から原告らは被告に対し少なくとも本訴提起までには本件買取請求の対象区分所有建物を引き渡したことが認められるから、提訴日からの遅延損害金の請求を認める。このことは、引換給付判決を求めている原告ら以外の原告らも同様である。

2  原告大塚

原告大塚の区分所有建物(二〇一号)の鑑定による時価は一一一〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費用一三八万七〇〇〇円を控除(片づけ費用がないことは被告主張から明らかである)した九八一万三〇〇〇円が時価となる。

3  原告有田

原告有田の区分所有建物(二〇三号)の鑑定による時価は一二三〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費用三三万一〇〇〇円及び片づけ費用一九万八七九〇円を控除した一一七七万〇二一〇円が時価となる。

4  原告永野勝巳、同永野美知子

同原告らが共有している区分所有建物(二〇六号)の鑑定による時価は一〇二〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費用二九万七〇〇〇円及び片づけ費用五万一五〇〇円を控除した九八五万一五〇〇円が同室の時価となる。同原告らの持分割合は原告永野勝巳が二三四分の二三一、原告永野美知子が二三四分の三であることは弁論の全趣旨から明らかであるから、その割合により原告永野勝巳が被告に請求できる金額は九七二万五一九九円、原告永野美知子が被告に請求できる金額は一二万六三〇一円である。

5  原告荒井實、同荒井裕子

同原告らが共有している区分所有建物(二〇九号)の鑑定による時価は一三二〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費用一〇七万六〇〇〇円及び片づけ費用七万三一三〇円を控除した一二〇五万〇八七〇円が同室の時価となる。同原告らの持分割合は原告荒井實が二〇分の一九、原告荒井裕子が二〇分の一であることは弁論の全趣旨から明らかであるから、その割合により原告荒井實が被告に請求できる金額は一一四四万八三二六円であり、原告荒井裕子が被告に請求できる金額は六〇万二五四四円である。

6  原告西原

原告西原の区分所有建物(三〇八号)の鑑定による時価は二〇九〇万円である。また、同原告は駐車場専用使用権についても買取請求をしているが、その権利の価格は鑑定の結果により二五〇万円である。その和である二三四〇万円からサッシュ・ガラス工事費一八〇万八〇〇〇円及び片づけ費用九万八七九〇円を控除した二一四九万三二一〇円が同室の時価となる。

7  原告齋藤

原告齋藤の区分所有建物(四〇六号)の鑑定による時価は二〇四〇万円である。また、同原告は駐車場専用使用権についても買取請求をしているが、その権利の価格は鑑定の結果により二一〇万円である。その和である二二五〇万円からサッシュ・ガラス工事費五九万四〇〇〇円及び片づけ費用二八万八四〇〇円を控除した二一六一万七六〇〇円が同室の時価となる。

8  原告奥

原告奥の区分所有建物(五〇二号、五〇三号)の鑑定による時価は二九八〇万円である。また、同原告は駐車場専用使用権についても買取請求をしているが、その権利の価格は鑑定の結果により二五〇万円である。その和である三二三〇万円からサッシュ・ガラス工事費一三四万一〇〇〇円及び片づけ費用六万四八九〇円を控除した三〇八九万四一一〇円が同室の時価となる。

9  原告和田

原告和田の区分所有建物(五〇八号)の鑑定による時価は二一六〇万円である。また、同原告は駐車場専用使用権についても買取請求をしているが、その権利の価格は鑑定の結果により二五〇万円である。その和である二四一〇万円からサッシュ・ガラス工事費一五九万四〇〇〇円を控除(片づけ費用の負担がないことは被告主張から明らか)した二二五〇万六〇〇〇円が同室の時価となる。

10  原告吉永

原告吉永の区分所有建物(六〇六号)の鑑定による時価は一一七〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費六一万二〇〇〇円及び片づけ費用五万一五〇〇円を控除した一一〇三万六五〇〇円が同室の時価となる。

11  原告齋田

原告齋田の区分所有建物(六〇八号)の鑑定による時価は二二九〇万円である。また、同原告は駐車場専用使用権についても買取請求をしているが、その権利の価格は鑑定の結果により二五〇万円である。その和である二五四〇万円からサッシュ・ガラス工事費一八〇万七〇〇〇円を控除(片づけ費用の負担のないことは被告主張から明らか)した二三五九万三〇〇〇円が同室の時価となる。

12  原告甲野春子、同甲野三郎、同甲野次郎

同原告らが共有している区分所有建物(七〇六号)の鑑定による時価は一〇六〇万円である。そこからサッシュ・ガラス工事費六一万二〇〇〇円を控除(片づけ費用の負担のないことは被告主張から明らか)した九九八万八〇〇〇円が同室の時価となる。なお、同室においては自殺の疑いによる減価をすることになるが、鑑定による時価はすでにそのことを考慮した上で時価を算定している(最終的な特別修正として一〇パーセントを減価している)。

同原告らの持分割合は原告甲野春子が二分の一、同甲野三郎が四分の一、同甲野次郎が四分の一であることは弁論の全趣旨から明らかであるから、その割合により原告甲野春子が被告に請求できる金額は四九九万四〇〇〇円であり、同甲野三郎及び同甲野次郎が被告に請求できる金額は各二四九万七〇〇〇円である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邉安一 裁判官今井攻 裁判官武田正)

別紙建物目録〈省略〉

別紙抵当権目録〈省略〉

別紙金額一覧表〈省略〉

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